ビール業界最大手のアサヒビールは10月4日、一部商品の値上げを発表しました。価格改定は来年3月1日からで、ビールや焼酎、リキュール類のうち、瓶詰め、樽詰めの形で出荷されている商品(リターナブル容器商品)が対象となります。同社が値上げに踏み切るのは2008年以来、10年ぶりのことです。
飲料や食品の値上げといえば、原材料の仕入れ価格が上がったり、生産工場で働く従業員の人件費が上昇したりという、いわゆる「製造原価」が高くなった時に、販売価格へ転嫁するのが一般的です。しかし、今回のビールの値上げはこうした理由によるものではありません。直接的な原因は「法律の改正」なのです。
ビールはその成分によって課税額が決まると酒税法で定められています。アサヒなどのビールメーカーは何とかして安い製品を作ろうと、少しでも課税額が低くなる成分で新製品を開発します。その一方で、国は税収が減らないように酒税法を改正する、という“仁義なき戦い”が、メーカーと税務当局の間で長年繰り広げられてきました。
酒税法には、実は双子の弟のような法律があります。それが「酒税の保全及び酒類業組合等に関する法律」。略して、酒税保全法とか酒類組合法などと呼ばれています。
この法律は「酒税は国にとって重要な税収なので、酒税の確保と酒類の取引が安定するよう、酒類業者に組合を設立させて協力を求める一方、政府も酒類業者を保護します」という建て付けで1953年に制定されました。
この酒税保全法の改正版が昨年の国会で可決され、今年6月に施行されました。この改正で「酒類の公正な取引の基準」という項目が誕生しました。酒類の製造・販売にかかわる事業者は総販売原価を下回る価格で継続的に販売してはいけない、ということになったのです。
|